他人から殴る蹴るなどの暴行を受け、ケガをしたときは、どうすればよいでしょうか。

主に、刑事事件化して暴行を行った人を処罰してもらう方法と損害を賠償するよう請求する方法の2つが考えられます。

この記事では、傷害事件の被害者が、ケガを負った後に採るべき法的に考えられる対応、やることの流れ等を解説いたします。

傷害罪で加害者を処分してもらう

まず、傷害罪(刑法204条)として、暴行をした人を処分してもらう方法が考えられます。

この場合、警察署に行き、被害届を出しましょう。

もし警察で捜査ができない旨の回答がされた場合には、告訴状を作成し、提出することも検討しましょう。

被害届の提出や告訴する場合、被害を受けてからすぐに被害届や告訴状を提出しに行くことが重要になります。

時間が経過してから警察に行っても、警察から重要な事件であると理解されない可能性があります。

告訴は、被害届の提出とは異なり、犯罪の被害にあった事実を届けるだけではなく、暴行をした者の処罰を求める意思表示という意味も含まれています。

告訴は口頭でも可能ですが、捜査機関に確実に告訴を受理してもらうには、告訴状を作成し、提出することが事実上必要不可欠となります。

法律上、警察には告訴を受理しなければならない義務があります。もっとも、告訴状の記載が不明確な場合や明らかに犯罪が成立しない場合、時効が経過している場合は、例外的に受理しないことが認められています。

もっとも、警察では様々な理由をつけられて告訴が最初は受理されないことが普通です。

告訴を受理すると警察は検察庁に速やかに資料の送付を行わなければならず、受理されたか否かは後日被害者に書面で通知を行わなければならず、処理が大変になるからです。

場合によっては弁護士を同行させるなど、告訴を受理してもらえるように粘り強く警察に強く主張することが必要になります。

告訴する場合には、告訴状と犯罪事実を証明する証拠となる資料を添付しましょう。

いきなり提出に向かうよりも、前もって警察署には電話連絡を行っておいた方がスムーズです。

告訴の受理義務は、事件の管轄にかかわりなく全ての警察署の司法警察員にありますが、事件の管轄である警察署へ提出した方がやはりスムーズでしょう。

ただ、告訴状を提出するだけでなく、事情聴取もなされますので、時間がある程度かかることを想定して提出しましょう。場合によっては、その場では受理されず、何度も警察署に訪問しなければならないケースも多いです。

傷害罪で立件されると

警察が捜査を開始すると、加害者は傷害罪(刑法204条)により逮捕される可能性があります。

傷害罪は、人の身体を傷害することによって成立する犯罪です。

法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。

刑法204条「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

暴行を働いた人の住所が定まっていない場合や逃亡のおそれがある場合、証拠を隠滅する可能性がある場合には、加害者は警察によって身柄拘束(逮捕・勾留)されます。

たとえば、富士市や富士宮市内で発生した傷害事件の場合には、まず、富士警察署富士宮警察署に逮捕・勾留されることが多いです。

勾留請求されてから請求日を含め原則10日間、さらに勾留が延長されると最大で20日間勾留されます。

その後、検察官により、起訴か不起訴、すなわち、暴行を働いた人が正式な刑事裁判にかけられるか否かが決まります。

もっとも、罰金刑に処される場合は、略式起訴といって、直ちに釈放された後に罰金を納付するよう国から請求が来ます。

この場合、一旦釈放されれば再び身柄拘束もされず、後で裁判所で裁判にかけられずに済みます。 

重大でない、あるいは悪質でない傷害罪の場合は、略式起訴になることが多いと思います。

一方、前科があったり悪質な傷害事件の場合は、起訴されて裁判を待つまでの間、比較的長く勾留されることになってしまいます。

起訴されてから、保釈を裁判所に請求することもできますが、この場合は保釈金(最低でも150万円程度)を裁判所に予め納付する必要があります。

加害者が保釈後に問題なく平穏に生活を営んでいれば、保釈金は事件後に返金されます。 

実刑判決ならば刑務所に収監 執行猶予ならば判決期日に釈放されます。

被害者としては、処分が決まる前に加害者と示談をすることも考慮する必要があります。

示談は成立すると、加害者への処分は軽くなる方向で確実に考慮されるので、加害者はなるべく弁償をして示談を成立させようとします。

被害者とおいては、加害者を感情的に許すことはできず、厳罰に処してほしいと思うのが普通ですし、少しでも多くの金額を完全に賠償してもらいたいと思うのが普通です。

とはいえ、万が一裁判になると多額のお金と時間を費やし、その上、相手にめぼしい財産がなければ、一銭も回収することができないなどということも珍しいことではありません。

後々、民事事件として損害賠償請求を相手にしたときに支払ってくれないリスクや早期に弁償してもらえるというメリットを考慮すると、早期に示談に応じることは、被害者にもメリットがある場合が多いと思われます。

なお、処分までに示談が成立しなければ、 以後示談が成立したとしても、刑事事件の処分に対する意味はなくなってしまい 加害者の国選弁護人も任務終了となりますので、もし被害者で示談に応じる意思があるのであれば、被害者の側も時間を意識して交渉する必要があります。

示談金の相場ですが、これといって決まっているわけではありませんが、民事事件での損害賠償請求額が目安となります。

加害者が逮捕・勾留された時点で、損害賠償請求額の見当がつかない場合は、予想される罰金額に相当する金額を示談金額にするという方法もあります。

勾留されていれば、加害者には弁護人がついていますから、被害者は、加害者の弁護人を通じて示談をするか、あるいは、示談の条件について話し合うことになります。

民事事件として損害賠償を請求する

民事事件として、被害者が暴行を働いた人に対し損害賠償請求をするには、まず証拠を収集する必要があります。

最低限必要な証拠は、診断書です。傷害事件によってケガを負ったことを確実に立証するためには、被害者は事件後、すぐに病院に行くことが重要です。

また、警察に被害届を提出し、加害者が傷害罪で刑を受けていれば、刑事事件の記録を民事事件での証拠として用いることができます。

加害者に請求できる損害は、まず治療費です。これは病院の領収書で証明を行います。

加害者に治療費を請求するのは、全ての通院が終わった後が原則となります。

治療が終了するまでは、暴行とケガとの因果関係を否定されないよう、継続的に通院することが大事です。できれば最低週1回、どれだけ忙しくとも月1回は通院しましょう。

通院のため支出した交通費も請求できます。この場合は、電車やバスなどの公共交通機関を用いた場合はその金額が、車を使用した場合は1kmあたり15円のガソリン代相当額と駐車場代が認められます。タクシー代については、必ずしも認められない可能性があります。これらも立証には領収書が必要ですが、領収書がなくとも合理的経路で通院した相当額が認められる可能性があります。

また、休業損害も請求できます。立証するには、勤務先に休業損害証明書を発行してもらう必要があります。

さらに、慰謝料を請求できます。

慰謝料は、実務的には、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する『損害賠償額算定基準』(通称「赤い本」)と呼ばれる本の基準に従って算定されます。

また、慰謝料は、入通院期間を基礎として算定されます。入通院期間は、診断書、診療報酬明細書等医療記録により証明します。

たとえば、ケガにより3か月通院すれば、慰謝料の額は73万円になります(赤い本別表Ⅰ参照)。

さらに、赤い本は基本的には交通事故のための基準であり、過失によるケガを想定しているため、故意つまりわざと相手から暴行を受けてケガを負わされた場合には、赤い本の基準以上の慰謝料が認められる可能性もあります。ですので、慰謝料は請求できる損害の中でも、相当額が認められる可能性があります

ただ、交通事故によるケガは、ムチ打ち症などによって長期にわたる通院を余儀なくされる傾向があるのに対し、暴行によるケガは、骨折などで入院を伴うものであっても、比較的早期に治癒する傾向があります。

慰謝料は、基本的に入通院期間に従って算定されるため、交通事故によるケガに比べて低額になる可能性があります。

もしケガにより後遺症が残った場合、ケガによる逸失利益と後遺傷害慰謝料を請求できる可能性があります。

これには前提として、症状が固定した時点で、病院で後遺障害診断書を取得し、後遺障害が認められることが前提となります。

請求すべき損害が確定した場合は、加害者にまずは内容証明郵便等によって請求するのが通常です。

ここで、暴行を働いた人が応じなければ、訴訟提起、すなわち裁判を起こすか否かを検討することになります。

暴行を働いた人に話し合いの余地があると考えられる場合には、簡易裁判所に調停の申立てを行い、裁判所で調停委員を介して話し合いをするのも選択肢として考えられます。

人が相手にケガを負わせる行為は、不法行為(民法709条)にあたります。

不法行為の場合、裁判所の管轄は、①不法行為地(傷害事件が起こった場所)、②金銭債務の債権者の住所地(被害者の住所)のいずれかの裁判所となります。

ですので、被害者は、自分の住所に近い裁判所に訴訟を提起することができるのです。

訴訟は、長い時間がかかり、通常、短くても半年はかかります。

また、訴訟は基本的に弁護士によって行われることが想定されている制度であるため、弁護士に頼まずに一般の方が行うのは非常に大変です。

ですので、弁護士に依頼するのに多額の費用が掛かる点がデメリットです。

参考記事:富士市、富士宮市での民事事件の解決 

加害者に資力があるかどうかが問題

被害者の請求を認容する判決が出ても、加害者が支払わなければ、手続を経ずに加害者に無理やり支払わせることはできません。

加害者が支払わない場合には、訴訟とは別に強制執行の手続をしない限り、裁判所に認められた債権を回収することはできません。

加害者の自宅等土地・建物が判明している場合にはその不動産を、加害者の勤務先が判明している場合には加害者の給料を、加害者名義の口座のうち少なくとも金融機関名と支店が判明している場合にはその口座の預貯金を差し押さえることができます。

しかし、加害者が差し押さえられるような財産を持っていない場合には、残念ながら債権を回収することはできないことになります。

ですから、訴訟する場合には、加害者に資力があるのか否かという点も考えて提起する必要があります。 

消滅時効が成立していないか

不法行為の損害賠償請求権の消滅時効の期間は、かつては、損害及び加害者を知った時から3年でした。

しかし、令和2年4月1日施行の民法改正により、人の生命または身体の侵害による場合には、不法行為の損害賠償請求権の消滅時効の期間については5年、不法行為時からは20年となりました(改正民法724条の2)。

時効期間が延びたことにより、従来より傷害事件の被害者による損害賠償請求がやりやすくなったと言えます。

なお、暴行を受けたときに加害者の氏名住所がわからなかった場合は、加害者をまだ知っていないので、住所氏名が判明してから時効期間が経過することになります。

また、刑事事件の傷害罪の時効は10年です。

結論

       法律上の責任        手段

刑事事件 → 傷害罪(刑法204条)   警察署に被害届を提出、告訴状を提出等

民事事件 → 不法行為(民法709条)  書面で損害賠償を請求、訴訟の提起等

病院に速やかに行き診断書を取得した後、なるべく早く警察に被害届を提出すれば、傷害罪で暴行を働いた人を処分できる可能性が高いです。

また、暴行を働いた人の就業先やその人に資産があることがはっきりとしており、損害と加害者を知ってから5年以内であれば、暴行を行った人に損害賠償請求して、慰謝料含む相当な金額の賠償金を取得できる可能性が高くなります。 

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ひのもと法律事務所
輿石逸貴 弁護士(静岡県弁護士会)


令和3年1月にひのもと法律事務所を設立。静岡県東・中部を中心に、不動産、建築、交通事故、離婚、相続、債務整理、刑事事件等、幅広い分野に対応する。 憲法学会に所属し、在野での憲法研究家としての一面も持つ。