土地の時効取得に必要な「占有」とは?【法律解説】
自分の土地だと思ってずっと使っていたら、実は隣人の土地だった。
この場合、一定の条件を満たせば、時効取得によってその土地の所有権を取得できます。
「平穏かつ公然」と「所有の意思」をもって「20年(善意かつ無過失の場合は10年)の占有」により、他人の物(土地など)を時効取得できます(民法162条1項、2項)。
民法第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
「占有」とは
「占有」は、正確にいえば、客観的要素と主観的要素をいずれも備えていてはじめて成立します。
すなわち、客観的要素である「事実上の支配力」あるいは「現実の支配」が客体に及んでいるといえ、
かつ、主観的要素として、「所有者として振舞う意思」あるいは「占有物に対する権利を有するかのように振舞う意思」が客体に及んでいる場合に「占有」と言えます(林田光弘「取得時効の要件となる占有の客観的要素(一) : フランス法を素材として」)。
それでは、ある土地の一部分に対して、占有が及んでいる場合とはどういう場合でしょうか。
判例は、「占有」といえるには「一定範囲の土地の占有を継続したというためには、その部分につき、客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならない」(最高裁昭和46年3月30日判決)と述べています。
「排他的な支配状態を続けなければならない」という表現ですと、他者の侵入を許さないような形で支配していなければならないかのように読めます。
しかし、実際には、自分のものとして扱っていることが外からわかる状態であれば「排他的な支配状態」といえます。
占有者が「自分のものとして扱っている」というのはまさしく「所有者であるかのように振る舞う意思」という主観的要素があることを意味し、「外からわかる状態」というのは「現実の支配」が外部に現れているという客観的要素があることを意味します。
たとえば、自分の自宅敷地から他人の土地に侵入する部分まで一緒に舗装して、縁石で区切り、あたかも自分の土地の一部であるかのようにしてしまっている場合です。
この場合、単に舗装して縁石を設けているだけであって、他人がその土地部分に容易に侵入できますが、排他的支配といえ、「占有」を継続しているといえます。
必ずしもフェンスで囲うといった状況まで必要ないのです。
古い判例ですが、大審院判決昭和16年12月12日は、家屋の突出した屋根の下の土地は、通常家屋所有者が占有するものと認めるのが相当であると判示しています。
「排他的な支配状態」というのは、文言から受ける印象よりも緩やかに認められるものだといえそうです。
ひのもと法律事務所
輿石逸貴 弁護士(静岡県弁護士会)
令和3年1月にひのもと法律事務所を設立。静岡県東・中部を中心に、不動産、建築、交通事故、離婚、相続、債務整理、刑事事件等、幅広い分野に対応する。
憲法学会に所属し、在野での憲法研究家としての一面も持つ。