婚姻中の夫婦が別居した場合、婚姻関係を継続している間は、収入の低い側は高い側に対し、婚姻費用(生活費)を請求することができます。

婚姻費用の分担請求は、婚姻中の現在の生活のために必要な経済的支援を別居している配偶者に求めるものであり、裁判所で調停によって決める場合には、基本的には双方の収入に応じて、決定されることになります。

(婚姻費用の分担)
民法760条「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」

しかし、例外的に、婚姻費用の請求が権利の濫用にあたるとして認められない場合があります。

権利の濫用とは、権利を不当に行使(濫用)していると認められる場合には権利の主張が認められないことです。

民法1条3項「権利の濫用は、これを許さない。」

裁判例によれば、別居の主な原因が婚姻費用分担請求の申立人にある場合には、申立人の生活費にあたる分の婚姻費用の分担請求が権利の濫用(または信義則に反する)として許されない場合があるとされています(東京高裁昭和58年12月16日決定・判タ523号215頁、福岡高裁宮崎支部・平成17年3月15日決定・家裁月報58巻3号98頁、東京家裁平成20年7月31日審判・家裁月報61巻2号257頁など)。

「別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというベきところ、申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあっては、申立人は、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず、ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。」

東京家裁平成20年7月31日審判・家裁月報61巻2号257頁

上記審判例にしたがいますと、権利の濫用にあたる場合、婚姻費用の請求のうち、子どもらの養育費にあたる金額は請求が認められますが、申立人の生活費にあたる金額は、申立人にも責任があることから請求が認められないことになります。

別居の主な原因が婚姻費用分担請求の申立人にある場合とは、典型例が別居者が不貞行為をしている場合です。

ここで言う、別居の主な原因とは「別居に至った原因」のことであって「別居をどちらが行ったか」という意味では必ずしもありません。

ですので、単に一方の配偶者が別居を始めた場合や、別居者が子どもと一緒に家を無断で出て行ったという場合では、婚姻費用の請求が権利の濫用にあたるとまでは言えないでしょう。

調停・審判で権利濫用が争われる場合

婚姻費用を相手方に請求したにもかかわらず支払われない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担の調停を申し立てることが考えられます。

もし調停の中で、申立人が不貞を行っているのだから婚姻費用の請求が権利の濫用にあたるとの主張が相手方からなされた場合、調停の手続の中で実際に不貞が行われたのかを審理しなければならなくなります。

調停で決まらない場合には、審判といって当事者による話し合いではなく裁判官の判断によって決定されることになります。

このように、権利の濫用が相手方から主張されると審理の長期化を招く一方、生活費の請求に関しては慰謝料とは違って一刻を争う性質の争いであることから、離婚訴訟や不貞の慰謝料請求訴訟ほど厳格に不貞の立証は要求されていないようです。

しかしながら、審理がある程度長期化することは避けられないでしょう。

特に、並行して離婚訴訟や慰謝料請求訴訟が提起されている場合、別個に審理が行われることから、調停・審判は訴訟の進行を待たねばならず、いつまで経っても進まないという場合もあります。

調停自体は弁護士に依頼しなくても、当事者だけで進めることは可能ですが、調停の審理が長期化するおそれが高い場合には、弁護士に相談や依頼する必要性が高いと言えるでしょう。

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ひのもと法律事務所
輿石逸貴 弁護士(静岡県弁護士会)


令和3年1月にひのもと法律事務所を設立。静岡県東・中部を中心に、不動産、建築、交通事故、離婚、相続、債務整理、刑事事件等、幅広い分野に対応する。 憲法学会に所属し、在野での憲法研究家としての一面も持つ。