車両同士の交通事故で双方ともケガがなかった場合(物損事故)、弁護士に依頼するメリットは何でしょうか。

今日では、任意保険として弁護士費用特約保険(業界では略して「弁特」と呼ばれます)に加入している方が多くなってきています。

この場合、弁護士に相談・依頼するのは無料であり、等級が下がることもないので、大変便利な保険です。

なお、無料となるのは上限額が決まっており、相談料は10万円まで、弁護士費用は300万円までとなっています。

しかし、一般的に、単純な物損事故で(損害額ではなく)弁護士費用が300万円を超えるケースというのは、あまりないでしょう。

現在では、交通事故にあっても弁護士に依頼しやすい状況にあるといえます。

物損事故で最も争いになるのは過失割合

物損事故で最も多く争いとなるのは、過失割合です。

過失割合については、訴訟では、東京地裁が編集している『別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版』(判例タイムズ社。略して「判タ」と呼ばれる。)という本に、典型的な事例ごとに過失割合の基準が掲載されており、この本の基準を参考に判断します。

事故が、判タ掲載の典型的な事例に当てはまる場合は、まず判タ基準通りの過失割合が認定されることになり、特別な事情がない限り基準から外れることはありません。

したがって、単なる参考基準ではなく、極めて重要な基準ということになります。

もっとも、現実の事故は様々であり、この本の基準を基本としつつも、修正を加えて最終的な過失割合を決めることも多く、その場合には過失を修正すべきか否か、修正すべきとしてどの程度過失を減算・加算するのか争いになることが多いのです。

さらに、そもそもどの基準に該当するのか明らかでない事故態様も多く、参考にすべき基準がない場合は、過失割合の予測を立てることが困難な場合もあります。

裁判官によって、当事者の過失の大きさがひっくり返るということもあるのです。

ですから、過失割合は、ある程度類型的に決定されるものですが、完全に機械的に判断されるものではない以上、訴訟において弁護士がどのように主張するのかは重要になります。

過失割合の争いであっても、弁護士に相談・依頼することは重要ですし、なるべく物損事故の処理に慣れている弁護士に委任した方がよいでしょう。

保険会社の提示は信用できるのか

相手の保険会社が提示してきた過失割合が、はたして適正なものなのか、判断に迷う場合が多いかと思います。

保険会社も上述の「判タ」を調べた上で過失割合を提示しますので、全くあさっての方向で過失割合を提示してくるということは、少ないと思います。

ですが、当然ながら相手の保険会社は相手に有利になるように、こちらに不利になるように主張をしてきますから、判断に迷うポイントがあったときには、相手に最も有利になる主張をしてくる傾向があります。

弁護士に相談すれば、客観的な落としどころはどのあたりなのか、そして、こちら側で最も有利な主張をするとすればどのような主張ができるか、という観点からアドバイスをしてくれます。

弁護士の判断の根拠は、弁護士自身の訴訟などの経験によるところも大きく、弁護士であれば、裁判を行うことまではできない保険会社の担当者ではわからないようなことも助言できます。

修理費用・時価額の争い

事故車両の修理費用が争いになることがあります。

その事故でついた損傷でない部分まで含めて修理していると思われるケースがあります。

ケースによっては、事故前の時点で車が傷だらけでそのままにしていたということもあるのです。

この場合、工場から出る見積書を精査して判断する必要があります。

さらに、時価額については、より争いになりやすいといえます。

修理費用が事故車両の時価額を上回る場合は、被害車両の所有者は、時価額の限度でしか相手に損害賠償請求できません(経済的全損)。

しかし、時価額は、被害者車両の中古車価格の相場を参考に推測する必要があり、見積書に記載された費用で単純に決まるわけではありません。

参照する中古車の価格データによって価格にズレが生じやすい、ある意味フィクション性がある損害なのです。

中古車の価格は、レッドブックという本を参考にしたり、インターネットの中古車価格サイトを参考にしたり、色々な手段が考えられます。

ですから、修理費用や時価額の争いの場合にも、弁護士がついて適切な主張をしていくことが大事なのです。

弁護士は訴訟ができる

保険会社の担当者と弁護士とで決定的に異なるのは、弁護士は訴訟等の法的手段に訴え出ることができるということです。

当事者自身が訴訟を行うことはできますが、訴訟はそもそも弁護士による遂行を想定して作られている制度ですので、本人だけでは大変な困難が伴います。

訴訟の結果、和解できれば調書が作成され、それが債務名義となって、強制執行することも可能となります。

和解ができなければ、裁判所で尋問が行われた後、判決がでます。

つまり、裁判官が最終的に決定するのです。

訴訟で証拠となるものは、被害車両の修理見積書、事故発生状況図などです。

しかし、最大の証拠は、やはりドライブレコーダーです。

ドライブレコーダーがあればそもそも紛争は起こらないのではないかとお考えの方もいるかもしれません。

しかし、実際は、ドライブレコーダーに事故の全貌がはっきり映っていなかったり、映っているとしても事故の評価の問題で争いになることがよくあります。

ドライブレコーダーがあったとしても交通事故の争いがなくなることはありませんし、むしろ重要な証拠としての意味をもってくることになるのです。

弁護士に頼むデメリットはあるのか

これまで述べてきたとおり、物損事故で弁護士に頼むメリットは非常に大きいものがあります。

反面、弁護士に頼むデメリットはあるのでしょうか。

この点、弁護士に依頼する際には着手金・報酬金を支払う必要がありますが、被害者が弁特に加入していれば、法律相談料は上限10万円、着手金・報酬金上限300万円までは無料で弁護士に委任することができますので、損害額が大きくない場合が多い物損事故では、あまり費用の心配をする必要はないといえるでしょう。

また、弁特を使用しても等級が下がることはなく、まさにお気軽に使える保険といえます。

したがって、弁特に加入している場合は、弁護士に頼むデメリットはほぼないといえます。

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ひのもと法律事務所
輿石逸貴 弁護士(静岡県弁護士会)


令和3年1月にひのもと法律事務所を設立。静岡県東・中部を中心に、不動産、建築、交通事故、離婚、相続、債務整理、刑事事件等、幅広い分野に対応する。 憲法学会に所属し、在野での憲法研究家としての一面も持つ。