孔子廟

平成25年に建立された儒教の祖を祭る孔子廟「久米至聖廟」に、那覇市が公有地である公園の敷地を無償提供したことにつき、令和3年2月24日、最高裁大法廷は、憲法の政教分離の原則に違反すると判断しました。

政教分離に関する最高裁の違憲判決は、平成9年の愛媛玉串料訴訟と平成22年の空知太神社訴訟に続き3例目で、儒教施設に関する判断は初めてとなります。

本判決の特徴は、主に次の2つであると考えられます。

① まず、愛媛玉串料訴訟判決まで採用されていた目的効果基準を採用せず、諸要素を総合考慮して判断する方法を採用しました。

次に、②基準を厳格に適用し、違憲の判断を導きました。

① 目的効果基準とは、「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる」場合に、当該行為は政教分離原則に反し、違憲となるという基準です。

本判決は、平成22年の空知太神社訴訟判決に続き、目的効果基準を使わずに、「当該施設の性格,当該免除をすることとした経緯,当該免除に伴う当該国公有地の無償提供の態様,これらに対する一般人の評価等,諸般の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すべき」との判断方法を示しました。

② そして、最高裁は、同施設を建立した14世紀末に中国から渡来した職能集団の子孫で作る「久米崇聖会」が毎年行う祭礼について、供物を並べて孔子の霊を迎えるといった内容や、霊を迎える専用の扉のある門が設けられていること、更に、会の正会員を特定の血統子孫に限っている点で閉鎖性があるなど、廟が祭礼の実施を目的に建てられていると判断して、那覇市による使用料免除は憲法が禁じる「宗教的活動」にあたると判断しました。

本判決は、諸要素を緻密に検討し、結論的に、一般人の目から見て明らかに宗教性を帯びる施設に対する無償の土地使用を政教分離違反とした点において、少なくとも本件に関する限り国民の常識感覚に沿った真っ当な判決と言えるでしょう。

本判決の問題点

しかしながら、懸念も全くないわけではありません。たとえば、(靖国神社等を含む)慰霊施設で慰霊を行う行為は、欧米でも特定の宗教的行為とは考えられず、世俗的な慣習としての行為と考えられています。

従来最高裁が採用してきた目的効果基準からすると、国や地方公共団体による慰霊行為については、その行為の目的が戦没者の慰霊である限り世俗的なものであり、その効果も慰霊行為としてなされる限度において特定の宗教への助長にはならないものと言え、政教分離に反しないと考える余地がありました。

ところが、諸要素を総合考慮し、結論として一般人の目から見て宗教施設に対する便宜や宗教的行為と感じれば違憲となるという判決の流れが出てくれば、慰霊行為についても外形上宗教的要素が強い行為であることは否定できない以上、多くの慰霊行為がその外形に注目して特定の宗教への助長に繋がる政教分離に反する宗教的行為と判断されかねない危険を孕んでいるとも考えられます。

また、本判決では、儒教の宗教性に対する判断はしていませんが、学問・思想としての側面が強いとはいえども、文字通り「儒教」に宗教性が伴っていることは否定できませんから、全国にある文化財としての性質を帯びている儒教施設に対しても今後厳しい判断が下る可能性が出てきたことになります。

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ひのもと法律事務所
輿石逸貴 弁護士(静岡県弁護士会)


令和3年1月にひのもと法律事務所を設立。静岡県東・中部を中心に、不動産、建築、交通事故、離婚、相続、債務整理、刑事事件等、幅広い分野に対応する。 憲法学会に所属し、在野での憲法研究家としての一面も持つ。