【早わかり法律解説】DVがある場合、面会交流は認められないのか
子がいる夫婦で、一方が他方に(たとえば、夫が妻に)暴力をふるい、DV(ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力)を行っていた結果、別居に至ったとします。
この場合、DVをしていた側と子どもとの間で、面会交流はできないのでしょうか。
面会交流とは
そもそも、面会交流とは、子どもと離れて生活している親の一方が、子どもと定期的・継続的に会って、話をしたり、一緒に遊んだり、電話や手紙などの方法で交流を持つことをいいます。
民法上、離婚の際に、面会交流については父母で協議して決めるべきことが定められています。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」
注意しなければいけないのは、面会交流は、子どもと離れて暮らしている親のためのものではなく、あくまで子どものための制度であるということです。
ですから、面会交流の取り決めをする際には、子どもの気持ち、日常生活のスケジュール、生活リズムを尊重する等子どもの利益を最も優先して考慮しなければなりません(注1)。
判例
DV(=domestic violence ドメスティック・バイオレンス)について明確な定義はありませんが、一般的には「配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されます。
理論上は精神的な攻撃もDVに含まれますが、法律上問題となるDVは暴力を伴っている場合が多いです。
DVをしていた側と子どもとの間での面会交流については、以下の判例が参考になります。
「子は、同居していない親との面会交流が円滑に実施されていることにより、どちらの親からも愛されているという安心感を得ることができる。したがって、夫婦の不和による別居に伴う子の喪失感やこれによる不安定な心理状況を回復させ、健全な成長を図るために、未成年者の福祉を害する等面会交流を制限すべき特段の事由がない限り、面会交流を実施するのが相当である。」(東京高決平成25年7月3日、判タ1393号233頁)
そうすると、たとえば別居している一方の親によるDVが他方の親だけに向けられたものであり、暴行の程度も子供の教育上よくないとまで言えないものであった場合、未成年者の福祉を害するおそれはないといえますから、基本的には面会交流は認められることになります。
また、子に向けられたDVがあったとしても軽微な場合(暴力が伴わない場合や、子にも落ち度があり軽い暴行が1回だけあった場合など)は、ちゃんと子どもの安全性が十分に確保されているといえる状況である場合には、やはり未成年者の福祉を害するおそれはないといえますから、基本的には面会交流は認められるということになります。
さらに、子どもが別居している親との面会交流を拒んでいる場合であっても、実はそれは子どもが同居している親への配慮してそのように言っている可能性も大いに考えられます。
子どもの一方の親と会いたくないという気持ちがたとえその時は真実から出た言葉であっても、子どもの気持ちは不安定に揺れ動きやすいものということも考慮しなければなりません。
そもそも、面会交流という制度は、子どものためのものではありますが、子どもの意思を尊重し、子どもの意思で自由に親と会えるようにするためというわけでは必ずしもありません。
面会交流制度の趣旨は、「子の福祉」ということがよく言われますが、これはつまり子どもが別居している親ともちゃんと会ってコニュニケーションをとることにより、子どもの健全な成長を支えることが目的ということなのです。
ですから、子どもの意思だけにとらわわれることなく、たとえ子どもが面会交流を拒んでいたとしても、子どもの安全が十分に確保されているのであれば、基本的に面会交流は認められるということになります。
別居親が子に対し日常的に虐待を行っていたなど、子の安全が十分に確保できないことが明らかな場合には、面会は認められません。
子のお母様(妻)側のご相談を受けていると、お子様を「夫と面会させたくない」と希望されるケースが多いです。ですが、制度の目的からすると、よほどのことがない限りお子様と別居親との面会交流はされるべきという結論になります。
子どもの意思はどこまで考慮されるか
しかし、子の意思は全く無視されるべきものでもありません。
一般的に、子が10歳以上の年齢であると、その意思はある程度考慮されると言われます(逆に言うと、年齢がそれ以下である場合、裁判所では子どもの意思はほとんど考慮されない場合が多いです。)
さらに、15歳以上の年齢であれば、もはや子どもはある程度自立した意思決定ができると考えられるので、子と別居親とが直接面会の調整を図るべきとも考えられます。この場合、子が面会交流を拒むのであれば、その意思を尊重する要請が高まります。
また、子どもがどうしても別居親と会おうとしない場合は、強制的に連れ出すわけにはいきませんので、面会交流を事実上実現できない場合もあると思います。
法的に別居親との定期的に会うことを認めるべきという議論と、実際に会うことが可能かというのは話が別です。
結局、夫婦当事者の間で、よく話し合って実現可能な方法を合意することが大切なのです。
(注1)法務省ホームページ「面会交流」
(注2)男女共同参画局ホームページ
ひのもと法律事務所
輿石逸貴 弁護士(静岡県弁護士会)
令和3年1月にひのもと法律事務所を設立。静岡県東・中部を中心に、不動産、建築、交通事故、離婚、相続、債務整理、刑事事件等、幅広い分野に対応する。
憲法学会に所属し、在野での憲法研究家としての一面も持つ。