「立憲主義」とは何でしょうか?

 形式的な意味としては、「憲法に基づいて政治を行う原理」を指しますが、一般的に、ここでいう「憲法」とは独裁を認めるような形だけの憲法ではダメで、自由主義的な憲法でなければなりません(注1)。

 具体的には、権力分立、基本的人権の保障、法治主義などが憲法の内容として要求されます。

 ざっくり一言で言ってしまえば、「権力の制限を目的とする憲法に基づく政治」と理解すれば良いでしょう(注2)。

「立憲主義」の意味は変化している

 ところで、戦前の日本では、現代以上に「立憲主義」が盛んに言われていました。

 それは、当時は天皇主権の憲法であり、民主主義と天皇主権との整合性が争点だったため、「民主主義」よりも「立憲主義」と言う言葉の方が言い易かったという事情があります。

 当時で言う「立憲主義」とは、主に「議会政治」の意味でした(注3)。

 美濃部達吉は、立憲主義の根底をなしている思想は、リベラリズムとデモクラシーであるとし、具体的には、(1)国民的政治、(2)責任政治、(3)人格解放の政治、(4)法治政治としました(注4)。

 要するに、現代で言うところの「自由民主主義」と内容にほぼ差がないわけですが、帝国憲法下は、超然内閣制や君権主義(注5)と議会主義の対立がありました。そのため、「立憲主義」と言えば、自由民主主義を実現する手段である「議会政治」の重視を意味したのでしょう。

 大雑把に言うと、戦後の「立憲主義」は、自由主義的意味合いが強いのに対して、戦前は、民主主義的意味合いが強かったと言えます。

「立憲主義」には様々な意味がある

現代では一般的に「立憲主義」という言葉は、前述したとおり、「権力の制限を目的とする憲法に基づく政治」という意味で使われることがほとんどです。

しかし、政治家や弁護士が「立憲主義」という言葉を使って批判しているときは、あたかも「立憲主義」という言葉には絶対的に一つの意味しかないかのように使われ、当然にそれに従うべきであるかのように批判しているように感じるときがあります。

本来多義的で時代とともに意味が変化してきた言葉ですから、錦の御旗としてあまり振りかざしすぎるのも違和感を感じますし、説得力を欠くように思えます。


(注1)杉原泰雄編『新版体系憲法事典』(青林書院、2008年)137頁〔芹沢斉〕、『法律学小辞典〔第4版〕』(有斐閣、2004年)1211頁以下
(注2)厳密には、権力の制限のみを立憲主義とする見解(マッキルウェイン)と、権力の制限に加え権力の分立を立憲主義とする見解(C.J.フリードリッヒ)に分かれ、芦部信喜は後者の見解に立つ(芦部信喜『憲法学Ⅰ』(有斐閣、1999年)30頁以下)。
(注3)法律学小辞典1212頁
(注4)『美濃部達吉論文集 第1巻 (日本憲法の基本主義) 』(日本評論社、1934年)103頁以下
(注5)国民や議会ではなく、君主の権力を重視する政治原理は、一般には「君主主義」と呼ばれる。しかし、民主主義と対立関係にあるのは君主の権力であって、君主の存在と民主主義が矛盾するわけではない。したがって、筆者は、誤解を招く恐れの高い「君主主義」の用語を用いず、「君権主義」と呼称することとしている。

ひのもと法律事務所
輿石逸貴 弁護士(静岡県弁護士会)


令和3年1月にひのもと法律事務所を設立。静岡県東・中部を中心に、不動産、建築、交通事故、離婚、相続、債務整理、刑事事件等、幅広い分野に対応する。 憲法学会に所属し、在野での憲法研究家としての一面も持つ。